以前、朝日新聞コラムに掲載された、書記、岩城康雄様(6期生)のエッセイを掲載させて頂きます。 |
バイト先で見る娘 |
大学生の娘がアルバイトを始めた。駅前のスーパーのたい焼き店が勤務場所だ。
前にも高速道路のサービスエリアで販売店員のアルバイトをしていたことがあった。どちらかというと、接客の適正を持っているらしい。アルバイト先のたい焼きは、小豆がおいしいようで、一つ105円の値段も手頃なのかよく売れている。
私も勤め帰りに立ち寄ることがある。夕食の総菜が目当てなのだが、食品フロアを回りながら、たい焼き店の前を通りかかる。「いらっしゃいませ、ありがとうございました。」えくぼの笑顔で応じる娘の様子を、横目で見ながら通り過ぎる。 |
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ある時、私も売上に協力しようと、店の前に現れた。「小豆のたい焼きを5枚。」娘は父親の私をほかのお客と同じように相手にした。顔をまともに見合わせない売り手と買い手の気まずい雰囲気の中で「買ってやったぞ」「何で来たのよ」と言葉を交わす。
娘が小学生の時、私は妻を亡くした。それから十数年。親はなくとも子は育つと言うが、親離れしようとしている娘と子離れできない私。一抹の寂しさを覚える。
今もときどき遠くから店をのぞく。どこか母親の面立がちのぞいてきたか。少し大人になの雰囲気も漂わせながら、娘はたい焼きを売っている。 |